普段のレッスンでは平均律を弾いていましたが、あるとき先生に「何が悪いってわけじゃないけど、なんだかバッハじゃない」と言われ、そこで勧められたのが、アンドラーシュ・シフの演奏する「ゴルドベルグ変奏曲」のCDでした。
当時の私には、何がどうしてこんなにこのピアニストの演奏が素敵なのかよく分かりませんでしたが、とにかく自分がピアノを弾いている時間以外はずーーっとこのCDをかけていました。不思議と、まったく飽きることがないのです。そして、霧が晴れるように、自分のバッハを演奏するときの方向が見えてきたのを覚えています。
その後日本にいる間にシフのコンサートに行く機会はありませんでした。もしかすると、来日公演がなかったのかもしれません。
そしてトロントに移住し、ピアノを教えるようになり、やっぱりシフのCDは私のバイブルです。日本ほど大物音楽家がしょっちゅうコンサートを開くことのないカナダで、たまに行きたいコンサートを見つけては行く、とういう日常です。
ところが今年度になってコンサートスケジュールが発表されたとき、思わず一人で「えええええーーーー!!」と声をあげてしまうくらいビックリ。ついにあのアンドラーシュ・シフのトロント公演が!!!これは行かないわけにはいきません。
絶対行こうと思ってたわりに行動が遅かった私が、いざチケットを買おうとウェブサイトを開いたら、なんと残り1席!!!ひっくり返りそうになって、慌てて購入。最後の1席を無事押さえ、完売となったというわけです。
そして迎えたコンサート当日。
待ちに待ったシフの生演奏。夢のような時でした。
音にしか接したことにないシフが、今目の前でピアノを弾いています。なるほど、こういう雰囲気で弾く人だったのかーーと、長年の謎もとけ、相変わらずこの世のものとは思えないような美しい音色に酔いしれ、そして、コンサートは幕を閉じました。
やっぱりシフのCDは私のバイブルだと、改めて思ったのでした。
また行きたいなあ、と、今から楽しみにしていますが、果たしてトロントに再び立ち寄ってくれるでしょうか。。。そうであることを祈って。